白い黄金——アルバ、トリュフ狩人たちの夜

白い黄金——アルバ、トリュフ狩人たちの夜

お皿の上に載る食材のなかで、もっとも高価なもの。

栽培はできず、暗闇の中で犬の花を頼りにして探すその食材は、この世のほかのどんなものとも違う香りがします。

グラム単価は銀より上

毎年秋、ピエモンテの丘から掘り出される、ごつごつした白っぽいキノコが、グラムあたり銀より高い値で売られます。

トゥーベル・マグナトゥム・ピコ——アルバの白トリュフです。

平年なら市場で1キロ3,000〜5,000ユーロ(約6万〜10万円)、乾燥した年には価格はさらに跳ね上がります。

毎年11月、グリンツァーネ・カヴール城で開かれるチャリティー・オークションでは、香港やドバイからビデオで参加する入札者を相手に、たった1個のトリュフが10万ユーロを超える値をつけたこともあります。

トリュフの採取期間は州の法律で9月21日から1月31日までと決まっていますが、いちばんよいのは秋の雨の後、10月と11月です。

一体なぜ、トリュフはここまで高価格なのか。

そこには二つの理由があります。

1つ目は、白トリュフは栽培することができないこと。

黒トリュフと違って、お客さんの要望通りの白トリュフを育てることはできません。

2つ目は、オーク、ポプラ、ヤナギ、シナノキの地中の根と共生しており、地表からは見えないこと。

手に入れるためには、地中から探し出さなければなりません。

そんな白トリュフを探し出すことこそが、「トリフォラウ」の生業です。

トリフォラウと、その犬

トリフォラウとは、ピエモンテの方言でトリュフ狩人のことです。

伝統に従って、彼らは犬が集中できる夜の時間にひとりでトリュフ狩りに出かけます。

しかし、その行動にはもっと重要な理由があります。

それは、自分の行き先を誰にも見られないため。

狩人の「タルトゥファイエ(トリュフの採れる場所)」は父から息子へ受け継がれ、誰にも教えることのない秘密の場所なのです。

彼らの装備は懐中電灯、サピンという小さな鍬、袋、そして犬。

ラゴット・ロマニョーロという巻き毛のトリュフ犬の場合もありますが、多くは「タブイ」と呼ばれる様々な犬種の雑種です。

トリフォラウの犬は、子犬のころからトリュフの香りをつけたおもちゃで訓練されます。

昔ながらの豚はもう使われません。

豚はトリュフを食べてしまうので、イタリアでは1985年に禁止されました。

犬が地面をひっかいたら、トリュフと根を傷つけないよう手でその場所を掘り出します。

そして菌糸を生かし、来年もトリュフが取れるように、同じ土で穴を埋め戻すのです。

夜の収穫は、よいときは数百グラムほど。

その後、トリュフォラウは夜明け前に帰宅し、9時には市場にいます。

トリュフの祭り

1928年から始まった「アルバ国際白トリュフ祭り(Fiera Internazionale del Tartufo Bianco d'Alba)」。

地元のホテル経営者ジャコモ・モッラが、チャーチル、トルーマン、マリリン・モンローといった有名人にトリュフを贈り始め、「トリュフの王」の称号を手に入れた年です。

お祭りは、10月初めから12月初めまでの週末に開かれます。

屋根付きの市場では、すべてのトリュフが審査員によって検査され、硬さ、香り、穴がないことを確認して販売されます。

小切手帳を持ったシェフから、日曜の昼食用に30グラムほしい夫婦まで、あらゆる買い手が鼻を頼りに市場を歩き周ります。

この市場の周辺では、街全体が秋の熱気に包まれます。

10月第1日曜日に行われるロバのレース「パリオ・デッリ・アージニ」をはじめ、トリュフ犬のコンテスト、バローロの試飲会、そして一年で最も予約が困難になる2週間など、さまざまなイベントが開かれ、秋の間まさに街の中心として賑わいます。 

決して、火を通さない

白トリュフには決して火を通しません。

熱が香りを壊してしまうからです。

丸ごとテーブルに運ばれ、食べる直前に「アッフェッタタルトゥーフィ」という小さなかんなで削られます。

それをのせる料理は、温かく、シンプルで、香りを乗せられるだけの脂があるもの。

タヤリンと呼ばれる、小麦粉1キロに対して卵黄30〜40個を使う、髪の毛ほど細いピエモンテの卵麺や、

目玉焼き、フォンティーナチーズを溶かしたフォンドゥータ、包丁で叩いた仔牛の生肉カルネ・クルーダ、何も入れないリゾット。

ひとり15グラムで十分すぎるほどの香りこそが、白トリュフの真骨頂です。

ニンニク、蜂蜜、干し草、湿った土、そしてどこかガスのような香り。

それは、言葉にするのは難しく、忘れることは不可能な香りなのです。

天上の香りと思うか、強すぎると思うか。

感想はまさに人それぞれ。

トリュフは紙に包んで冷蔵庫で数日もちますが、日ごとに香りは弱くなっていきます。

だから10月のアルバは、「今」トリュフを食べる人でいっぱいなのです。

トリュフに合わせるワインについては、ピエモンテでは議論になりません。

ネッビオーロ、バローロかバルバレスコ。

トリュフと同じ丘で育つブドウ畑では、10月に1年でもっとも美しい月を迎えます。

10月のランゲ

10月は、まさにランゲ地方のためにあるような季節です。 

朝にはネッビア(霧)が谷間に立ち込め、昼が近づくにつれて晴れ渡っていきます。

畑ではネッビオーロの収穫が進む一方、ヘーゼルナッツの収穫は終わったばかり。

フェレロ社の本拠地であるアルバの名物であり、街のパン屋のショーウィンドウを「トルタ・ディ・ノッチョーレ(ヘーゼルナッツのケーキ)」で彩る、あのピエモンテ産ヘーゼルナッツ(ノッチョーラ・ピエモンテ)です。

ブドウの葉が赤く色づくなか、バローロ、ラ・モッラ、ネイヴェ、モンフォルテといった丘の町々が、それぞれ城を戴いて尾根の上に佇んでいます。 

中世の塔と三つ星レストランを擁する人口3万人の町アルバは、この2ヶ月間、ヨーロッパで最も「食」に熱狂する場所へと姿を変えます。

 そして、白トリュフの魅力を誇るのはアルバだけではありません。

トスカーナ州のサン・ミニアートやマルケ州のアックアラーニャでも、11月になるとそれぞれのトリュフ祭りが賑やかに開催されます。

日本の読者へ

日本人にとっての松茸をご存じなら、白トリュフがイタリア人にとってどんなものか、もうお分かりかと思います。どちらも栽培できず、探し出すしかない秋のキノコ。どちらも味より香りで尊ばれ、宝石のような値がつき、贈り物になります。そして注意事項も同じ。強く火を通さないこと、余計なものを加えないこと。日本人は松茸を土瓶蒸しにし、ピエモンテ人はトリュフを目玉焼きに削りかける。考え方はまったく同じです。

トリュフの丘のワイン

トリュフと同じ丘の、そしてもう少し北のネッビオーロです。

●ボルゴーニョ(ピエモンテ) バローロ村そのもので1761年に創業した蔵のバローロ。

\ワイン博士MIHOのおすすめ/バローロの歴史そのものと言える老舗名門。じっくりと煮込んだお肉料理や熟成チーズとともに、その重厚でエレガントな構造美に酔いしれてほしい至高の一本です!

●トラヴァリーニ(ピエモンテ) 州北部のネッビオーロで、より軽やかで香り高く、トリュフのタヤリンに。


\若手エースHIKAのおすすめ/
バローロとは一味違う、北ピエモンテの火山性土壌から生まれるネッビオーロ。美しい酸と際立つミネラル感、澄んだ果実味がとてもスタイリッシュで、モダンな赤ワイン好きにぜひ試していただきたい注目の逸品です!

●ラ・スコルカ(ピエモンテ) トリュフが届く前の最初の皿に、ガヴィを。

\トレンド番長KAZUのおすすめ/『ガヴィといえばスコルカ』と言われるほど、世界の高級レストランやパーティで支持され続ける最高峰の白。キリッと冷やして、採れたての魚介カルパッチョや塩でいただく天ぷらと!

 

TEXT/ITALIAKARA

※この記事は、イタリア文化のスペシャリストの監修がされています。