アルト・アディジェのドイツ語圏の⾕では、秋とは農家から農家へ歩き、新酒と焼き栗と肉団子をいただくこと。
そしてその頭上には、ヨーロッパで唯⼀、⻩⾦⾊に変わる針葉樹があります。
ブドウ搾り機から⽣まれた⾔葉

ボルツァーノを中⼼とするアルト・アディジェ県は1919年までオーストリア領で、住⺠の多くは今もドイツ語を第⼀⾔語としています。
この⼟地の秋にはドイツ語の名前があります。
「テルゲレン」——古い⽊のブドウ搾り機「トルグル」に由来する⾔葉です。
この習慣は商売をきっかけに始まりました。
収穫の後、ボルツァーノ北のイザルコ渓⾕の農家が、ワインを買い付ける人たちを蔵に招いて新酒を試飲させ、買ってもらうために⾷事でもてなしたのです。
買い付け⼈はいなくなりましたが、食事の習慣は残りました。
今⽇のテルゲレンでは、10⽉か11⽉の午後にブドウ畑と栗林を抜ける⼩道を歩いていきます。
ブレッサノーネとボルツァーノを結ぶケシュトゥンヴェーク(栗の道)を歩き、この季節だけ宿屋を開いている農家を目指すのです。
目的地の⽬印は看板。
宿屋の⼾⼝には、吊るした枝の束か枝の輪「ブッシェン」がかかっており、「ブッシェンシャンク」と呼ばれます。
⽊張りの部屋にタイル張りの暖炉、⻑椅⼦。
農家のおかみさんが作る料理には、メニューはありません。
⾷卓に運ばれてくるもの

ブッシェンシャンクに来たからには注文すべき料理がいくつかあります。
まず、この県の顔であるジュニパーの⾹りの燻製ハム「スペック」⼊りの⼤⻨のスープ。
ホウレン草とリコッタを詰めた半⽉形のラビオリ「シュルッツクラプフェン」か、パンの団⼦をブロードに浮かべた「カネデルリ」。
それから「シュラハトプラッテ」。
秋の豚の解体でできる⾁屋の盛り合わせで、ソーセージ、燻製豚⾁、⾎のソーセージ、ザワークラウト、⻄洋わさびと共に味わいます。

そして最後に、この散歩の⽬的ともいえるもの。
歩きながらくぐり抜けた⽊々からとれた焼き栗「ケシュトン」と、けしの実や栗やジャムを詰めた揚げ菓⼦「クラプフェン」、それと新酒です。
10⽉の新酒はまだ濁りがあり、発酵途中の「ズーザー」。
⽢くて少し発泡しています。
11⽉には仕上がった若いワイン、「ヌイアー」になります。
たいていは地元品種スキアーヴァの軽い⾚か、ラグレインです。
⾕には鉄道が⾛っているため、テルゲレンから⾞で帰る⼈はいません。
カラマツの黄金

10⽉末にここへ来るもうひとつの理由にカラマツがあります。
カラマツはヨーロッパで唯⼀、針葉を落とす針葉樹。
落葉前の2週間になると、ドロミティの灰⾊の岩を背景に⼭腹がまるごと⻩⾦⾊になるのです。
イタリアでは、紅葉を意味する英語の「foliage(フォリッジ)」と呼ばれるこの期間、イタリア人は車に乗って紅葉を見に行くのです。
行き先は、オードレ⼭群の下に聖マッダレーナ教会が⽴つフネス⾕や、シウジ⾼原へ、ガルデーナ⾕。
さらに⻄のピエモンテとスイスの国境では、ドモドッソラとロカルノを結ぶ⼩さなヴィジェッツィーナ鉄道がブナの森を抜ける「トレーノ・デル・フォリッジ(紅葉列⾞)」も有名。
10月の座席の予約が9月には埋まってしまうほどの人気ぶりです。

リンゴと、⽜の帰還

紅葉と同じ数週間に、ほかに⼆つの収穫が重なります。
1つ目はリンゴ。
ヨーロッパで⾷べられるりんごのおよそ10個に1個が、アルト・アディジェで育てられていると言われています。
それに加えて、トレンティーノのノン⾕もアルト・アディジェに並ぶ⼤果樹園です。
収穫期は9⽉から10⽉まで続きます。
この時期、⾕は果実の⾹りに包まれ、街のカフェにはその年のりんごで作られたアップルシュトゥルーデルが並びます。

そして9⽉末になると、⽜が下りて来るのです。
夏のあいだ、⾼地の牧草地でアルプスのチーズになる乳を出していた⽜たちは、行列をなしながら帰還します。
アルト・アディジェでは「アルムアプトリープ」、トレンティーノでは「デズモンテガーダ」と呼ばれる⾏列です。
⽜たちは、花の冠とリボンと巨⼤な鈴で飾られます。
ただし、この行事が行われるのは夏に事故がひとつもなかった年だけ。
村では伝統衣装に身を包んだブラスバンドの演奏と、山の上で夏を過ごした牛のミルクから作ったチーズ市が開かれます。
楽しみ⽅

アルト・アディジェの秋は、10⽉半ばから12⽉初めまで楽しめます。
そして、その中心地となるのがイザルコ渓⾕。
ウーザ、ブレッサノーネ、ヴェルトゥルノ、ヴィッランドロといった、ボルツァーノから列⾞で1時間ほど北の⼩さな町で秋を味わうことができます。
楽しむためには、まず散歩をすること。
最低2時間は歩かないと、お腹が空きません。
⽇曜⽇にはレストランが満席になるので、予約を忘れず、できれば平⽇に。
現⾦を持ち、ブーツを履き、夜には予定を入れない方がよいでしょう。
ITALIAKARAの読者のみなさまへ
これはイタリアの紅葉狩りです。⽇本⼈がカエデを⾒に⽇光や嵐⼭へ⾏くように、アルト・アディジェの⼈はカラマツを⾒に⾏きます。そこですることは同じです。歩き、⾊を眺め、その後に⾷事をとる。イタリアの紅葉狩りは、⽇本人にとって少し既視感があるかもしれません。一つは、ここの⾕は⻘森と同じようにリンゴを育てていること。二つ目は、どの⾓にもあるイタリア語とドイツ語の⼆⾔語の道路標識。⽇本語と英語の書かれた標識の下に⽴ったことのある⼈には、どこか懐かしく⾒える景色のはずです。
秋に味わうテルゲレンのワイン
テルゲレンのワインは、アルト・アディジェとトレンティーノのワインです。
エレナ・ヴァルヒ(アルト・アディジェ) ゲヴュルツトラミネールにその名を与えた村テルメーノから。シュルッツクラプフェンには⽩を、シュラハトプラッテにはラグレインを。
\トレンド番長KAZUのおすすめ/ アディジェの渓谷を黄金色に染めるカラマツと、ブドウ畑を抜ける風を感じさせる洗練された1本!ゲヴュルツトラミネール発祥の地・テルメーノが誇る華やかな香りと力強いミネラル感が魅力です。
フェッラーリ(トレンティーノ) アップルシュトゥルーデルに、あるいは歩き始める前に、トレントDOCを。
\ワイン歴30年CHIIのおすすめ/ アルプスの山々に抱かれたトレンティーノが誇る、最高峰のスパークリング!名産のリンゴを使った焼き立てのアップルシュトゥルーデルに合わせれば、爽やかな泡がパイ地のコクを心地よく引き締め、最高のアペリティーボを叶えてくれます!
アルプスのチーズ ItaliaKaraのチーズ売り場から。⽜たちの夏の仕事に。

TEXT/ITALIAKARA
※この記事は、イタリア文化のスペシャリストの監修がされています。

