11⽉1⽇、イタリアでは多くのお店がお休みし、2⽇にはみんなで墓地へ向かいます。
シチリアでは、夜のあいだに先祖の魂がやってきて、良い子にしていた子どもたちへプレゼントを届けます。
そして誰も、どこであっても、菊の花を贈り物として人に渡すことはありません。
⼆⽇と、ひとつの花
イタリアの11⽉1⽇は「オンニサンティ(諸聖⼈の⽇)」と呼ばれ、中世から続く祝日になっています。
そして11月2⽇は「イル・ジョルノ・デイ・モルティ(死者の⽇)」。
書類上では祝⽇ではありませんが、誰もが祝日として過ごす日です。
この⼆⽇のあいだに、イタリア⼈は1年でいちばん⼤切な墓参りをします。
墓を清め、墓⽯の写真を拭き、「ルミーニ」という⼩さな⾚いろうそくを灯し、花を供えます。
その花はいつも決まって菊。
ちょうど11⽉の第1週に咲くため、イタリアでは何世紀にもわたって死者の日を象徴する花です。
ジェノヴァのスタリエーノ、ミラノのモヌメンターレといった墓地は19世紀の彫刻の美術館のようで、この⼆⽇間は大きな賑わいを見せます。

イタリアを訪れる⼈が必ず知っておくべきルールがあります。
それは、菊を贈らないこと。
誕⽣⽇にも、⾷事の招待にも、お⾒舞いだとしても贈ってはいけません。
菊は死者に手向けるためだけの花であり、それ以外の何物でもないのです。

死者が運んでくるもの
一方、シチリアの11⽉2⽇は⼦どもの⽇。みんなで楽しむ日です。
11月1⽇の夜、先祖の魂がやってきてプレゼントを残していく——シチリアの⼦どもたちはそう教えられます。
2日の朝、⼦どもたちはそのプレゼントを探すのです。
⼾棚に隠されたおもちゃ、⼲しイチジク、ナッツ、硬いビスケットが入った「カンニストル」と呼ばれるバスケット。
カンニストルには、この日だけの特別なものも入っています。
1つ目は「フルッタ・マルトラーナ」。
桃、イチジク、ウチワサボテンの実をかたどったマジパンの果物で、その精巧さは本物と⾒まちがえてかじる⼈がいるほど。
パレルモのマルトラーナ修道院の修道⼥たちが作り始めたと言われています。

2つ目は「プーピ・ディ・ズッケロ」。
色鮮やかな砂糖細工の騎士や貴婦人たちで、子どもたちはまずおもちゃにして遊びます。
飽きてしまったら、ようやくおやつとしてかじることが許されるのです。
パレルモの「フィエーラ・デイ・モルティ(死者の市)」は1週間、通りが屋台で埋め尽くされます。
ほかにも、サルデーニャ島には独⾃の文化があります。
1⽇の⼣⽅に、⼦どもたちが家の⼾を叩いて魂たちのためにお菓⼦を求めます。
ハロウィンより古い習慣です。
⾻、⾖、死者のパン

イタリアのほかの⼟地では、記憶を⾷べます。
ミラノではココア、ドライフルーツ、スパイス、砕いたアマレッティの、黒っぽく柔らかいビスケットに粉砂糖をふった「パン・デイ・モルティ(死者のパン)」が、
ウンブリア、マルケ、ローマの中部イタリアでは、ソラマメの形をした⼩さなアーモンドのビスケット「ファーヴェ・デイ・モルティ(死者のソラマメ)」が食べられます。
始まりは古代ローマ。
ソラマメには死者の魂が宿ると信じられていました。
現代まで続くこの信仰は、今やローマ⼈より2000年⻑く生き続けています。

ほかにも、ピエモンテとシチリアでは「オッサ・デイ・モルティ(死者の⾻)」を食べます。
名前どおりの⾒た⽬の、硬く⽩いメレンゲのようなビスケットです。
プーリアで食べられるのは「グラーノ・デイ・モルティ」。
茹でた⼩⻨にザクロの実、チョコレート、クルミを混ぜたもので、死者のための⾷べ物を、⽣者が代わりに⾷べるのです。
ハロウィンではないカボチャ

イタリアには11⽉にカボチャが飾られます。
ハロウィンの為ではありません。
マントヴァのカボチャ、砕いたアマレッティ、モスタルダ(果物の辛子漬け)を包んだ「トルテッリ・ディ・ズッカ」は、甘みと刺激が絶妙に調和した詰め物パスタ。
ポー川流域の平野部に暮らす人々にとって、この季節ならではの特別なごちそうとなっています。
フリウリのヴェンツォーネでは10⽉末、人々が中世の⾐装をまとうカボチャ祭りが開かれます。
ハロウィンという文化そのものは、主に子どもたちや商店街を通じてイタリアにも定着しました。
とはいえ、その楽しみ方は「半分だけ」。
学校での仮装やちょっとしたパーティーはあるものの、家々を回る「トリック・オア・トリート」は定着していません。
ハロウィンの翌朝、家族揃って車に乗り込み墓地へと向かう時、イタリア人にとっての「本番」が幕を開けるのです。

ポンテ、時計、そして暖房
祝⽇が⽕曜か⽊曜に当たると、イタリア⼈は⽉曜か⾦曜もお休みします。
それが「ポンテ(橋)」です。
2026年は11⽉1⽇が⽇曜⽇に当たるため、橋をかけることはできません。
こんな年は、国じゅうがちょっと不機嫌になります。
そして、同じ週にはほかに⼆つ、どんな暦よりはっきりと季節の変わり目を告げる出来事があります。
10⽉最後の⽇曜⽇、時計が1時間戻り、⼣暮れが5時にやって来ること。
そして暖房が⼊ること。
その⽇付を決めるのは家族ではなく国です。
イタリアは気候区分ごとに細かくゾーン分けされており、法律によって暖房(ボイラー)をつけてよい解禁日が定められています。
ミラノは10月中旬から、パレルモは12月1日から。
その日が訪れるまでは、家の中でもセーターを着込んで寒さをしのぐのです。

ITALIAKARAの読者のみなさまへ
⽇本でいちばん近いのは、死者が帰ってきて家族が墓参りをする8⽉のお盆、そして春秋のお彼岸でしょう。菊がそれだけで橋を架けてくれます。皇室の花であり、同時に⽇本の葬儀の花でもある菊は、イタリアでは後者だけなのです。そして、亡くなった祖⽗⺟が⼀晩だけ帰ってきて⼦どもたちに贈り物を残していくというシチリアの考えは、イタリア文化全体でいちばん⽇本と類似したものかもしれません。
この記事の食事に合うワイン
死者のお菓⼦には⽢⼝ワインを、カボチャのトルテッリにはヴァルポリチェッラを。
マージ(ヴェネト) ファーヴェ・デイ・モルティやパン・デイ・モルティにはレチョート・デッラ・ヴァルポリチェッラを。マントヴァのカボチャのトルテッリにはヴァルポリチェッラを。
\ワイン博士MIHOのおすすめ/
スパイスやドライフルーツのお菓子には、同じく陰干しブドウの歴史を宿す『レチョート』がこれ以上なく調和します!一方、甘じょっぱいカボチャのトルテッリには、みずみずしい酸を持つフレッシュなヴァルポリチェッラを。モスタルダの刺激を心地よく受け止める見事なペアリングです。
プラネタ(シチリア) シチリアの⽇にはシチリアの⾚を。テーブルにはカンニストルを。
\イタリアーナAllieのおすすめ/
先祖が夜の間に贈り物を運んでくるシチリアの温かなお祭りには、やっぱり太陽と大地の恵みをたっぷり浴びたシチリアの赤ワイン!家族みんなで思い出話を語り合いながら陽気にグラスを傾けたいですね。
バディア・ア・コルティブオーノ(トスカーナ) 墓参りの後の11⽉の⽇曜の昼⾷に、キャンティ・クラッシコを。
\ワイン歴30年CHIIのおすすめ/
バディア・ア・コルティブオーノのキャンティ・クラッシコの凛とした酸と落ち着いた佇まいは、しみじみと語り合う休日の昼下がりにぴったり。暖炉に火が入る前の肌寒さも、この一杯がじんわりと温めてくれます。
TEXT/ITALIAKARA
※この記事は、イタリア文化のスペシャリストの監修がされています。

