9月の第1週、店のシャッターが上がると、国全体がいっせいに動き出します。そして数日のあいだ、誰もが話したいのはただひとつ、日焼けのことです。

キウーゾ・ペル・フェーリエ夏季休暇のため閉店(休業)
日本では1年は4月に始まります。イタリアでは9月に始まります。その理由を理解するには、まず8月を知らなければなりません。8月のほとんどのあいだ、イタリアは閉まっています。ゆっくりになるのではなく、閉まるのです。商店のシャッターには手書きの「chiuso per ferie(キウーゾ・ペル・フェーリエ=休暇のため休業)」の貼り紙。北部の工場は3〜4週間止まり、医者も配管工も姿を消し、街は観光客と、どうしても出かけられなかった住民のものになります。国じゅうが、ほぼいっせいに海か山へ向かい、9月の最初の数日に、ほぼいっせいに戻ってくるのです。

この帰還が「il rientro(イル・リエントロ=再入場、復帰)」です。誰も「仕事に戻る」とは言いません。リエントロと言い、専用のあいさつまであります。月初めのメールは「buon rientro(ブォン・リエントロ=おかえりなさい)」で始まり、国じゅうのバール(カフェ)のカウンターで交わされる最初の会話は決まって同じ。「Allora, com'è andata?(で、どうだった?)」。日焼けを比べ、写真を見せ合い、1〜2日のあいだ、エスプレッソが出てくるのが少しだけ遅くなります。

リエントロ症候群
毎年9月最初の月曜日、新聞は判で押したように同じ記事を載せます。「sindrome da rientro(シンドローメ・ダ・リエントロ=休暇明け症候群)」——倦怠感、気分の落ち込み、集中力の低下、そして処方箋(睡眠、日光、果物、最初の週に大きな会議を入れないこと)。半分は冗談で、半分は本気です。イタリア人にとって休暇はそれほど大切なもので、そこから戻ることは小さな喪失として、やさしく、そして長々と語られるのです。
9月は新しい1月

年々よく耳にするようになった言い回しがあります。「settembre è il nuovo gennaio(9月は新しい1月)」。
ほかの国が大晦日にとっておく新年の決意を、イタリアでは夏の後に立てます。ジムは満員になり、ダイエットが始まり、夜間講座が受付を開き、新しい手帳が買われます。
暦もそれに同意しています。月の前半にはヴェネツィア国際映画祭が開かれ、F1がモンツァにやって来て、サッカーのセリエAはすでに開幕2週目。そして月末には、自分の夏をしまったばかりの街ミラノで、ファッションウィークが来年の夏の服を見せるのです。
上っ張りを着て、学校へ
学校は9月の第2週か第3週に再開しますが、日付は州ごとに決まるため、ボルツァーノの子はローマのいとこより1週間早く登校します。いちばん小さな子どもたちの登校には、制服のようなものがあります。多くの小学校(6〜10歳)では、今もグレンビウーレ(grembiule=私服の上に着る上っ張り)を着るのです。

伝統的には男の子が青、女の子がピンクか白ですが、色は学校によってさまざま。プリマ・エレメンターレ(prima elementare=小学1年)の初日は家族の行事で、校門にはスマートフォンを掲げた祖父母が並びます。そしてその年の主役の品が、慎重に選ばれます。ディアーリオ(diario)——サッカー選手やアニメのキャラクターが表紙を飾り、中にはすべての宿題が書き込まれる学校用手帳です。
日本の親御さんが驚くことが二つあります。ひとつは、多くのイタリアの学校が月曜から土曜までの週6日、午前だけの授業で、1時ごろに終わると子どもたちは昼食のために家へ帰ること。給食付きで午後まで続く「tempo pieno(テンポ・ピエーノ=全日制)」は北部の都市では一般的ですが、全国的とは言えません。もうひとつは、教科書を家庭が書店で買うこと。だから9月初めには毎年、「il caro libri(イル・カーロ・リブリ=教科書が高い)」というニュースが流れるのです。

夏の名残を、瓶に詰める

食卓では、9月はイタリアでいちばん豊かな月です。
イチジク、夏最後のトマト、食用ブドウ、プラム、パプリカが一度に届き、山では雨の後に最初のポルチーニ茸が顔を出します。

南部では、休暇明け最初の週末が、1年でいちばん大きな家庭の儀式にあてられることがよくあります。「la passata(ラ・パッサータ=トマトの裏ごしソース)」作りです。
家族で完熟トマトを何箱も買い込み、中庭で煮て、裏ごしし、1本ごとにバジルの葉を1枚入れて瓶に詰め、手動の打栓機で密封します。1日の作業で200〜300本。ガレージや階段下に保管され、それが来年の9月までのパスタソースになります。指揮をとるのはおばあちゃん、打栓機を渡されるのは孫たちです。

9月の海

イタリア人に「海はいつ行くのがいい?」と聞けば、答えは9月です。海水はまだ温かく(南部では24〜26度)、ビーチクラブは月の半ばまで開いていて、料金は下がり、人混みはオフィスに戻ってしまいました。祖父母は学校が始まるまで孫と海辺に残ります。そのあとに、もっと静かな儀式が待っています。「chiusura della casa al mare(キウズーラ・デッラ・カーザ・アル・マーレ=海の家じまい)」。別荘を掃除し、家具にシーツをかけ、鎧戸を閉め、トランクいっぱいのトマトと「復活祭にまた来る」という約束を積んで、家族は街へ帰っていくのです。
ITALIAKARAの読者のみなさまへ
9月を、イタリアの「4月」だと考えてみてください:)
学校も仕事も新しい決意も、ファッションの暦さえも、この月に再始動します。イタリアの学年は9月に始まって6月に終わり、夏休みは3か月近く。だから「帰還」がこれほどの一大事になるのです。そして旅行に行く際は、「chiuso per ferie」の貼り紙を覚えておいてくださいね! 8月に3週間閉まるイタリアの店は、経営難なのではなく休暇中なのです。お客さんも、同じく休暇中なのですから。

リエントロなムードのアイテム♪
● プラネタ(シチリア) 夏がいちばん長く続く島の白ワイン。トマト、モッツァレッラ、最後のバジルと。
\泡ラバーAYAのおすすめ/プラネタの未来を切り拓いたシャルドネ。夏の余韻や名残惜しさを感じている人にぴったりムードが合う1本です。
● ヴィッラ・ブッチ(マルケ) ヴェルディッキオ。生ハムを巻いたイチジクと相性抜群。
\トレンド番長KAZUのおすすめ/夏が終わり、秋が始まる時期に、生ハムやイチジクを用意して、ホームパーティーで友人に振舞うのがお決まりです。ペアリングでぜひ楽しんでくださいね!
● フェウディ・ディ・サン・グレゴリオ(カンパーニア) 新しいパッサータで作る最初のパスタに、南の白を。
\イタリアーナAllieのおすすめ/イタリア人の私は、日本にいても9月は「リエントロ」を感じやすい。そこで、9月につくるパスタには、南の白ワインをチョイスして夏の余韻を楽しみます。
● ラバッツァ 休暇明け最初の月曜日の朝のモカ。リエントロはコーヒーから始まります。
\アシスタントSallyのおすすめ/ラバッツァを飲んでから1日をスタート。朝の時間が整うと、自然とやる気が出ます。現在はAMAZONからお買い求めいただけます♪
TEXT/ITALIAKARA
※この記事は、イタリア文化のスペシャリストの監修がされています。



