ピアッツァで過ごす夏の夜

ピアッツァで過ごす夏の夜

中世の広場を最高の野外コンサート会場へと仕立て上げる国は、イタリアだけ。

お決まりの過ごし方はいたってシンプル。

7時にアペリティーボを楽しみ、9時に音楽に酔いしれ、真夜中にジェラートを味わいます。 

イタリアには、蝉の声と同じくらい夏を象徴する音があります。

それは、800年の歴史を刻む石壁の背後に組まれた野外ステージから響いてくる、オーケストラのチューニング音です。

7月から8月にかけて、イタリアは国中のピアッツァ(広場)や修道院の中庭、古代闘技場、そして崖の上の高台に至るまで、あらゆる場所を音楽会場へと変貌させます。

そして、この国で最も小さな町が、最も壮大な夜を創り出すのです。

夏の夜の習慣は、いつの時代も決して変わらず人々を魅了します。

夜の7時にアペリティーボで喉を潤し、暑さが和らぐ9時にパフォーマンスを鑑賞し、終演後はライトアップされた街並みをジェラート片手に歩く。

そして第二幕の演出について、ああでもないこうでもないと議論を交わすのです。

ヴェローナ:2万人を魅了する巨体オペラ

最も壮大な夏の夜が繰り広げられるのが、ヴェローナです。

ヴェローナに現存する1世紀に建てられた古代ローマの円形闘技場では、毎年夏に、1913年から続く本格的なオペラフェスティバルが開催されています。

2万人もの観客が石造りの観覧席を埋め尽くす中、格安の自由席には素敵な伝統があります。

日が落ちると同時にクッションを敷き、小さなキャンドルに火をともすのです。

オーヴァチュア(序曲)が始まる直前、会場には数千もの幻想的な灯火がゆらめきます。

オペラシーズンは9月初旬まで続き、幕間に傾けるプロセッコは、もはやこの観劇に欠かせない儀式のようなもの。 

また、ヴェローナが誇るワインたちもその儀礼に欠かせません。

開演前にはキンと冷えたソアーヴェで喉を潤し、終演後の興奮と共に、地元のオステリアでヴァルポリチェッラを味わうのです。

スポレートと、ウンブリアが築いたフェスティバルの原型

地方の小さな町で開催される芸術祭のモデルは、ウンブリア州で生まれました。

1958年、作曲家のジャン・カルロ・メノッティは、石畳の小道と息をのむほど美しい大聖堂広場を擁する坂の町スポレートで、ヨーロッパとアメリカの架け橋となる「二つの世界フェスティバル(Festival dei Due Mondi)」の開催を始めました。

毎年6月から7月にかけての2週間は、町全体がひとつの劇場へと変わります。

ドゥオーモ(大聖堂)の階段にはオーケストラが陣取り、古代ローマ劇場ではダンスが披露され、町のあちこちのバルから楽しそうなおしゃべりの声が聞こえてきます。

もしこの記事を8月に読んでいるなら、今年の開催には残念ながら間に合いません。

代わりに来年6月のスケジュールに印をつけておきましょう。

しかし、たとえ何月であろうと、夏のウンブリアは芸術祭のエネルギーと食への情熱が満ちています。

黒トリュフを削りかけたストランゴッツィパスタや、屋台のワゴンで削りたてを楽しめる、香ばしいポルケッタのサンドイッチは絶品です。

ラヴェッロ:海の上に響く音楽

アマルフィ海岸に位置するラヴェッロでは、断崖から空中に突き出すように作られた特設ステージでコンサートが開催されます。

オーケストラの背後には、高さ300メートルの夕暮れの空気と、雄大なティレニア海が広がります。

この音楽祭は、1880年にワーグナーがこの地を訪れ、ヴィラ・ルフォロの庭園を自身のオペラに登場する「クリングゾルの魔法の庭」と称賛したことから始まりました。

現在では、毎年8月末ごろまで開催されています。

終演後の夕食には、シャラティエッリ(アマルフィ海岸発祥の手打ちパスタ)のシーフードパスタや、たった今ステージから眺めていた切り立った崖の畑で育った、キンと冷えたフロレの白ワインがおすすめ。

街角に響くジャズ、ビーチで楽しむロッシーペルージャでは毎年7月、旧市街の中心部全体が「ウンブリア・ジャズ」の舞台へと一変します。

歴史ある街へと続くエスカレーターを上がると、丸ごと巨大なライブハウスのようになった街が広がります。

演目の多くは無料で楽しめ、すべてが開放的な屋外で開催されます。

一方、アドリア海沿岸の街ペザロでは、8月になるとこの街出身の巨匠を讃える「ロッシーニ・オペラ・フェスティバル」が始まり、街中に歌声が響き渡ります。

昼はビーチで過ごし、夜は美しい歌に聞き入る。まさに至福の夏休みです。

また、トッレ・デル・ラーゴでは、プッチーニが数々の名曲を書き上げた湖畔で、彼のオペラが上演されます。

8月から9月へと季節が変わり始める頃、ストレーザではマッジョーレ湖畔に建つベル・エポック様式の邸宅が美しい音楽で満たされます。

各地のお祭りを調べ始めたら、その巡礼の旅に終わりがないことに気づくことでしょう。

なぜなら、ほぼすべての町が、独自の音楽祭や守護聖人のお祭り、そして期間限定の特設ステージを抱えているのですから。

 

熱気溢れるダンスの祭り 「ラ・ノッテ・デッラ・タランタ」

そして8月の終わり、プーリア州ではあまりお行儀が良いとは言えないお祭りが幕を開けます。

サレント半島の各地を巡る音楽祭の最終日に開かれるお祭り「ラ・ノッテ・デッラ・タランタ(タランチュラの夜)」です。

かつてタランチュラに刺された毒を抜くために踊られたとされる民族舞踊「ピッツィカ」でお祝いするこの祭りは、サレント半島の小さな村の広場にヨーロッパ最大級の熱気と観客を引き寄せます。

ドラムやタンバリン、そして力強い歌声を聴きながら、キンと冷えたサレント産のロゼワイン(ロザート)で喉を潤します。

そして午前2時を迎える頃には、数十万人もの人々が、歴史の起源すら分からないほど古くから伝わるステップを踏み締め、夜が明けるまで踊り続けるのです。

儀式スタイルこそが真髄

2万人を沸かせるヴェルディのガラ・コンサートも、数百人の村人が集う熱狂のピッツィカも、夜を形作る同じです。

会場へと向かう夕暮れのパッセッジャータ(散策)。

真のオープニングアクトとも言えるアペリティーボ。

夜の澄んだ空の下、ステージの明かりをアマツバメがかすめ、石壁が日中の温もりを静かに放つなかで始まるパフォーマンス。

そして終演後のゆったりとした時間。

ジェラートを味わい、最後のグラスを傾け、何世紀にもわたって毎年同じ夜を刻んできた街を歩いて帰る。

イタリアが作り上げたのは「野外で音楽を奏でる場」ではありません。

一夜の「完璧な文化体験」を作り上げたのです。

このフェスティバルの夏から何かひとつ学ぶとすれば、それは時間の使い方です。

7時には冷たいドリンクを。

9時には芸術の美しさに酔いしれる。

11時を過ぎても、決して急ぐことなく、残りの時間を楽しむのです。

 

TEXT/ITALIAKARA

※この記事は、イタリア文化のスペシャリストの監修がされています。