絵はがきでは見えないカプリ島の素顔

絵はがきでは見えないカプリ島の素顔

カプリ島には、2つの顔が存在します。

1つは、カプリ島から帰る夕方の船が出発するまでの時間。

もう1つは、その船が出港した後、夕方の6時から始まるカプリ島です。

そして後者こそが、古代ローマ帝国の皇帝も、文豪たちも、そして地元カプリの人々自身を魅了する、本当のカプリ島です。

夏の間、カプリ島では毎日同じ光景が広がります。

午前10時から夕方5時までは、日帰り観光客の時間。

ケーブルカー(フニクリ・フニクラ)で街へ登り、ピアッツェッタ(小広場)で写真を撮り、レモンのグラニータを味わい、そして船で帰路につきます。

やがて高速船の最終便が港を離れると、島は深く静かな息を吐き出します。

そして、もう1つのカプリ島が目を覚ますのです。

静けさが増し、涼やかな風が吹き抜け、街全体が黄金色に染まる時間。

そこにいるのは「この島を味わい尽くす唯一の方法は、夕食の時間までここに居続けることだ」と知っている人たちだけです。

2000年前のローマ皇帝たちも、その魅力を知っていました。

カプリ島が気に入った皇帝ティベリウスは、実に10年もの間この地で過ごしたと言われています。

日帰りの船で訪れるのは、ただ「カプリ島を観光する」ということ。

この島で夜を迎えてこそ、初めて「カプリ島と出会えた」と言えるのです。

ピアッツェッタの正しい楽しみ方

「ピアッツェッタ」の愛称で親しまれる小さな広場。

正式名称はウンベルト1世広場ですが、誰もが愛称の「ピアッツェッタ(小さな広場)」と呼びます。

ここはカフェのテーブルがコロッセオ(古代闘技場)のようにずらりと並ぶ、カプリの特等席です。

注文するコーヒー代は、いわば“人間観察という演劇”を楽しむための入場料。

日が暮れる夜7時、日帰りの人たちの波が去り、鐘楼にあたる光がアプリコット色に染まる頃、コーヒーを片手に広場を行き交う人々を眺めるとか。

そんな時間を過ごした後は、島の街並みを楽しみます。

ヴィア・レ・ボッテゲ(レ・ボッテゲ通り)やヴィア・カメレルレ(カメレルレ通り)といった路地には、最新のブティックと共にサンダル職人や調香師の工房が立ち並び、

カプリの古き良き手仕事の文化を垣間見ることができます。

アナカプリ——山の上に眠る、もう1つの静けさ

山の上に位置するアナカプリの人々は、昔から自分たちを「独立した文化圏」だと考えています。

実際に訪れてみれば、時の流れがゆったりと穏やかで、物価も落ち着いており、島で最も心地よい魅力が集まっていると感じるはずです。

例えば、庭園の上を通りながらソラーロ山の山頂へと運んでくれるリフト。

移動中の眼下には、まるで立体模型のようにカプリ島の景色が広がります。

そして、スウェーデンの医師アクセル・ムンテが古代ローマの遺跡の上に建てた「ヴィラ・サン・ミケーレ」。

そのパーゴラ(藤棚)からの眺めは、彼が誇張なしに「世界で最も美しい景色」と話すほどの絶景です。

海から眺める島の姿

カプリ島の美しさを最も堪能できるのは、船の上からです。

定番のクルーズ「ジーロ・デッラ・イゾラ」では、有名な「青の洞窟」を始め、「緑の洞窟」や「白の洞窟」、天然のアーチであるファラリオーニ(巨岩)の下をくぐり抜けます。

ここでは行列に並ぶ必要はありません。

加えて、この海には絶好のスイミングスポットがそこら中にあります。

クルーズでは、スキッパー(船長)が「ここが一番泳ぎやすい」と判断した場所で船を止めてくれます。

ほかにも、目の前にそびえ立つファラリオーニの巨岩の狭間、果てしなく深く続く青い海へと飛び込む体験は、まさにこの島への洗礼。

地元カプリの人々は、夕暮れ時になるとプンタ・カレーナの灯台下にある平らな岩場から海へ飛び込みます。

彼らにとって「砂浜」など、どこか無用なもののように思えるのです。

故郷で味わう「カプリ風サラダ」

世界で最も有名な3つの食材で作る料理「インサラータ・カプレーゼ」。

本場のカプリ島に来たのに、食べずに帰るわけには行きません。

ソレント半島産の常温のモッツァレラチーズに、しっかりとした香りのあるトマト、バジル、オリーブオイルに塩。

海外でありがちな、バルサミコ酢で描く装飾のようなものは必要ありません。

ほかにも、カプレーゼに匹敵する名物料理がこの島にはあります。

カチョッタチーズとマジョラム(ハーブ)を包み込んだ繊細な半月型のパスタ「ラヴィオリ・カプレーシ」や、薄切りレモンにオイル、唐辛子、ミントをあわせたアナカプリ風のレモンサラダ「インサラータ・ディ・リモーネ」。

一見意外な組み合わせに見えますが、一口食べればその素晴らしい味わいに驚かされます。

失敗から生まれたケーキ

カプリ島が食卓にもたらしたもう1つの贈り物、それは偶然の産物でした。

1920年代のこと、地元の菓子職人が魅力的でおしゃれなお客に見とれてしまい、アーモンドとショコラのケーキを作っていた際にうっかり小麦粉を入れ忘れてしまいました。

そうして誕生したのが「トルタ・カプレーゼ」です。

しっとりと濃厚で、アーモンドとダークチョコの風味が凝縮されたケーキ。

小麦粉を一切使わないことで、かえって極上の味わいが生まれたのです。

トルタ・カプレーゼは島にあるすべての洋菓子店が独自のレシピで焼き上げており、どのホテルでもエスプレッソと一緒に振る舞われます。

どの旅のお土産よりも魅力的なこのケーキ。

旅行者が度々スーツケースに入れて持ち帰るほどだとか。

レモンと食後酒(ディジェスティヴォ)のルール

アナカプリの小道を歩いていると、どこにいてもレモン畑の爽やかな香りが漂ってきます。

このレモンは料理の付け合わせだけでなく、食事の最後を飾ることもあります。

そんなレモンについて、カプリの人々が世界中に知ってほしいと思っているルール。

それは、リモンチェッロは食後酒(ディジェスティヴォ)であるということ。

カプリの人々にとって、リモンチェッロはキンキンに冷えた小さなショットグラスで食後に味わうもの。

食前に飲むことも、氷を入れることも、スプリッツで割ることは決してありません。

夕食前の特別な時間は、冷えたファランギーナやグレーコをテラスで味わうためにあるのです。

目の前でファラリオーニの巨岩が、グレーからローズ色へ、そして静かな影へとゆっくり変わっていくのを眺めながら。

島が本来の姿を取り戻す9月

9月になると日帰り観光客の波は落ち着き、海水は一年で最も温かくなり、ホテルの予約も取りやすくなります。

そして、島は本来の心地よいリズムを取り戻します。

夕方にトラガラの見晴らし台まで散歩をしたり、プンタ・カレーナで海に浸かったり。

ピアッツェッタには、カプリの人々が新聞を読む日常の景色が戻ります。

夕刻6時から始まる「もう1つのカプリ島」が、一日全体へと優しく広がっていく季節。

なぜ2000年もの間、多くの人々が短期滞在のつもりで訪れ、そのまま人生のすべてを過ごしてしまったのか。

もう一つのカプリ島を見れば、その理由がきっと心から理解できるはずです。

ITALIAKARAの読者のみなさまへ

旅行に行ったら「せっかくだから有名スポットを全部巡りたい!」と、ついスケジュールを詰め込んでしまいませんか? でも、もしカプリ島を訪れるなら、夕方5時の船を見送ったあとの「穏やかな時間」を愉しんでみてください! 

夕暮れの風を感じながら、冷えた白ワインを片手にただ岩の色が変わるのを眺める。そんな贅沢な過ごし方こそが、古代ローマの時代から受け継がれてきた最高のバカンスの過ごし方なのです。

穏やかな時間を彩るワイン♪

● ファランギーナ(フェウディ・ディ_サン・グレゴリオ)記事にも登場する、カプリの夕暮れ時のアペリティーボに欠かせない爽快な白ワイン。インサラータ・カプレーゼやレモンの料理と合わせて。

\ワイン博士MIHOの おすすめ/みずみずしく爽やかな香りが心地よい一杯!澄んだ酸とフレッシュなミネラル感が、食前の喉を潤すのにぴったりの白ワインです♪

● グレーコ・ディ・トゥーフォ(フェウディ・ディ_サン・グレゴリオ)火山性土壌が生み出す豊富なミネラルと骨格を備えた、カンパーニャを代表するプレミアムな高評価白ワイン。魚介料理やラヴィオリ・カプレーシに。

\若手エースHIKAのおすすめ/和梨や白桃の豊かなアロマに、しっかりとした旨味と奥行きを感じるエレガントな味わい!深みのあるミネラル感が、新鮮な魚介やハーブを効かせた温かなパスタ料理にぴったりです。

TEXT/ITALIAKARA

※この記事は、イタリア文化のスペシャリストの監修がされています。