サン・マルティーノ——すべてのモストがワインになる⽇

サン・マルティーノ——すべてのモストがワインになる⽇

11⽉11⽇になると、イタリアには温かな1週間と、ことわざと、ガチョウと、ショートブレッドの騎⼠と、ボジョレーより3週間早いイタリアの新酒が運ばれてきます。

兵⼠のマント

マルティーノは、4世紀のガリアで活躍したローマの騎兵将校でした。

猛吹雪のなか、アミアンの城門でひとりの物乞いに出くわした彼は、自らのマントを剣でふたつに引き裂き、その半分をその男に与えました。

言い伝えによると、その夜、奇跡のように太陽が顔を出したといいます。

やがて司教となり、聖人へと列せられた彼の祝日である11月11日は、イタリア人が物心ついた頃からずっと、厳しい寒さがふっと和らぐ特別な週とされてきました。

「エスターテ・ディ・サン・マルティーノ(小春日和/聖マルティーノの夏)」。

最初の深い霧が降りてから本格的な冬の寒さが訪れるまでのあいだに訪れる、穏やかで暖かい日々のことです。 

詩は、村を漂う樽からの新酒の⾹りで終わります。

この⽇の本当の⽤事は、そこにあるのです

イタリア人なら誰しもが暗唱できる有名な詩があります。

1880年代に詩人ジョズエ・カルドゥッチによって書かれた『サン・マルティーノ』。

イタリア人が小学校のころに覚える、おなじみの詩です。

「La nebbia a gl'irti colli piovigginando sale(霧は険しい丘に、⼩⾬のように⽴ちのぼる)」という冒頭のフレーズを聞けば、誰もが11月の訪れを耳の奥に思い浮かべます。

そして、この詩の最後を締めくくるのは、村で漂う、樽からの新酒の⾹り。

それこそが、このサン・マルティーノの日の本当の主役なのです。

すべてのモストはワイン

「A San Martino ogni mosto è vino(サン・マルティーノには、すべてのモストがワインになる)」。

イタリアで有名なことわざですが、農家では実際に起こることです。

9⽉に摘まれたブドウは11⽉初めには発酵を終え、11⽉11⽇は農夫が樽から最初の1杯を汲み、その年の出来を判断する⽇でした。

同じ時期に収穫期を迎える焼き栗も忘れてはいけません。

農家にとって、この日は1年間の農業のしめくくりでもありました。

1960年代まで、中部イタリアの⼤半は「メッザドリーア(折半⼩作)」によって管理されていました。

その契約期間は、サン・マルティーノの翌日から翌年のサン・マルティーノの日まで。

農場を移る際、小作農の一家はこの⽇に荷⾞を積んで引っ越したので、「fare San Martino(サン・マルティーノをする)」という言葉は、今でも「引っ越しをする」という意味の慣用句として使われています。 

ノヴェッロ——ボジョレーより3週間早く

イタリアの新酒は「ヴィーノ・ノヴェッロ」と呼ばれます。

ボジョレー・ヌーヴォーと同じくマセラシオン・カルボニック(房のまま密閉タンクで発酵させる製法)で造られ、柔らかく、紫⾊で、ラズベリーが香り、タンニンがほとんどないのが特徴です。

2012年には、法律で10⽉30⽇から販売を開始することが認められ、フランスの瓶より3週間早く棚に並ぶようになりました。

1990年代には、年間1800万本が売れるほどのブームが巻き起こりましたが、その後は本来の姿に落ち着いています。

ヴィーノ・ノヴェッロの本来の姿は、保存するワインではなく、儀式のワイン。

少し冷やしてカスタニャータの場で栗とともに、もしくは11⽉11⽇の夜に飲むのが一般的です。

11⽉前半になれば、街のどのバールに行ってもヴィーノ・ノヴェッロを飲むことができます。

ヴェネトのガチョウ、ヴェネツィアの騎⼠

ヴェネトにはこの⽇ならではの料理とことわざがあります。

「Chi no magna l'oca a San Martin no fa el beco de un quatrin(サン・マルティーノでガチョウを⾷べない者は、⼀⽂も稼げない)」。

イタリアでは、秋のあいだ太らせたガチョウは、この時期に絞められました。 

ミラノの⻄、ロメッリーナ地⽅の町モルターラでは、今もガチョウのサラミが作られています。

豚肉を食べないユダヤ人の知恵から生まれた、豚⾁の代わりにガチョウを⽤いたレシピです。

ヴェネツィアでは、この日は子どもたちのもの。 

鍋やフライパンを叩き、小銭をもらうために歌いながら路地を練り歩きます。 

そして街中のパスティッチェリア(菓子店)には「サン・マルティーノ」がずらりと並びます。

剣を帯び、馬に跨る聖人をかたどったショートブレッド(サブレ生地の焼き菓子)で、アイシングをまとわせ、カラフルなお菓子をあしらったものです。 

時には幅が50センチにも及ぶ巨大なものもあり、子供たちは豪快に割って分け合いながら味わいます。

北のランタン、南のビスケット

オーストリアの伝統が色濃く残るアルト・アディジェでは、10日の夕暮れになると子どもたちが紙のランタンを手に歌いながら村々を練り歩き、翌日には家族揃ってガチョウのローストを囲みます。

一方、南のパレルモでは聖人に捧げる伝統菓子「ビスコッティ・ディ・サン・マルティーノ」が登場します。

アニスが香る硬いリング状の焼き菓子で、モスカートなどの甘口ワインに浸して食べたり、半分に割ってリコッタクリームを挟んだりして楽しみます。

そして、イタリアで最も遅い収穫期を迎えるプーリアでは、ワイン醸造所が一斉にその扉を開けはなちます。

サン・マルティーノの日は、訪れるすべての人に搾りたての新酒が振る舞われる特別な日なのです。 

ITALIAKARAの読者のみなさまへ

実のところ、日本にはこの聖マルティーノの日の要素が、すでに二つとも揃っています。 11⽉の穏やかな「⼩春⽇和」は、まさにエスターテ・ディ・サン・マルティーノです。そして、日本で本国フランス以上の盛り上がりを見せる、11⽉第3⽊曜⽇のボジョレー・ヌーヴォー解禁。それに対しては、イタリアには10月30日にひと足早く届くヴィーノ・ノヴェッロが存在します。 真夜中のパーティーではなく、暖炉の火のそばで、焼き栗とともに傾けるワインです。

冬ごもりの夜に傾けたい!おすすめワイン

新酒は今この瞬間のもの。

マージ(ヴェネト) ガチョウには、ヴェネトの⽇常の⾚、若いヴァルポリチェッラを。

\若手エースHIKAのおすすめ/ ヴェネトの秋を締めくくるごちそうといえばガチョウ!しっかり脂の乗ったローストやサラミには、重いワインではなく、地元で普段から愛されているフレッシュなヴァルポリチェッラがベストマッチです。 

バディア・ア・コルティブオーノ(トスカーナ) メッザドリーアの丘のブドウ、サンジョヴェーゼのキャンティ・クラッシコ。

\泡ラバーAYAのおすすめ/ 凛とした酸と素朴で奥深い果実味は、まさにトスカーナの丘の原風景そのもの。秋の夜長に静かに寄り添ってくれる風格があります。 

フェウディ・ディ・サン・グレゴリオ(カンパーニア) ようやく収穫が終わろうとしている南から。

\トレンド番長KAZUのおすすめ/大地に残る太陽の熱気と豊かなミネラルを閉じ込めたフェウディの赤は、力強くもどこか温もりを感じる味わい。長い収穫期の終わりを祝うセラーの賑わいを想像しながら、じっくりと味わいたい一本です! 

TEXT/ITALIAKARA

※この記事は、イタリア文化のスペシャリストの監修がされています。