VILLA BUCCI

マルケが誇る、伝説のヴェルディッキオ

イタリア中部、アドリア海を望むマルケ州。なだらかな丘陵地帯が広がるこの土地で、世界最高峰のヴェルディッキオを生み出し続けている存在が、ヴィッラ・ブッチ社です。

300年以上にわたりワイン造りに携わってきたブッチ家は、約400ヘクタールに及ぶ広大な土地を所有し、その中の26ヘクタールの畑で、マルケを代表するワインを生産しています。

ヴィッラ・ブッチ社は、単なるヴェルディッキオの生産者ではありません。

“ヴェルディッキオの価値そのものを世界水準へ引き上げた存在”として、イタリア白ワイン界にその名を刻んできた名門ワイナリーなのです。

300年以上続く、ブッチ家の歴史

ブッチ家は、代々この土地で農業とワイン生産に携わりながら、マルケ州の土着品種ヴェルディッキオとモンテプルチアーノを守り続けてきました。

その長い歴史の中で、ワイナリーとしての転機を迎えたのが1970年代。大学教授でもあり、優れた実業家でもあったアンペリオ・ブッチ氏が、本格的なワインプロジェクトをスタートさせます。

彼が目指したのは、単なる地酒ではなく、“ブルゴーニュのようにテロワールを映し出すワイン”。

当時まだ十分に評価されていなかったヴェルディッキオの可能性を信じ、品質の向上に情熱を注ぎました。こうして誕生したのが、後に世界で評価される「スタイル・ブッチ」だったのです。

「ワインは畑から造られる」アンペリオ・ブッチの哲学

アンペリオ・ブッチ氏には、揺るぎない哲学がありました。

「ワインはセラーで生まれるものではない。ワインは畑から造られるもの」

その言葉通り、ヴィッラ・ブッチでは、醸造技術だけに頼ることなく、畑の個性を最大限に活かすワイン造りを徹底しています。

イタリアを代表する醸造家であり、“白ワインの巨匠”として知られる故ジョルジョ・グライ氏の支援も受けながら、独自のブレンド技術を確立。さらに、容量や素材の異なる樽を巧みに使い分けることで、唯一無二のヴェルディッキオとロッソ・ピチェーノを生み出してきました。

ヴィッラ・ブッチのワインには、技術だけでは到達できない、“土地の個性”が息づいているのです。

ヴェルディッキオの価値を変えた革新者

かつてヴェルディッキオは、「気軽に楽しむ白ワイン」という印象が強く、長期熟成に耐える高級ワインとして見られることはほとんどありませんでした。

しかし、アンペリオ・ブッチ氏は、その常識を覆します。

彼は、ヴェルディッキオで10年以上熟成可能なワインを生み出すことで、“高品質ヴェルディッキオ”という新たなカテゴリーを切り開きました。

その革新性は世界から高く評価され、2019年には、イタリアの食文化を守る権威あるスローフード協会より、生涯の功績を称える「キャリア賞」を受賞しています。

ヴィッラ・ブッチの功績とは、単に優れたワインを造ったことではありません。

ヴェルディッキオという品種の未来を変えたこと。

それこそが、アンペリオ・ブッチ氏がワイン界に遺した最大の功績なのです。

古木とテロワールが育む、圧倒的品質

ヴィッラ・ブッチの畑は、カステッリ・ディ・イェージ地区の丘陵地帯に広がり、石灰を豊富に含む粘土質土壌に支えられています。

この土壌は、ブドウに美しい酸と確かな骨格を与え、長期熟成を可能にする重要な要素となっています。さらに、畑の多くには55年以上、なかには65年を超える古木が存在し、深く根を張ることで、土地のミネラルと複雑性をワインへと映し出しています。

また、ヴィッラ・ブッチでは、区画ごとに収穫・醸造を行い、それぞれの個性を丁寧に見極めながらブレンドを実施。

異なる標高、向き、微細な土壌差が織りなすハーモニーによって、他にはない奥行きのあるヴェルディッキオが完成するのです。

100年近い古樽が生む、美しい熟成

ヴィッラ・ブッチのセラーには、約100年の歴史を持つスラヴォニア産の大樽が今なお使われています。

これらの古樽は、すでに木の香りをワインへ与えることはありません。

その代わり、ワインをゆっくりと呼吸させ、自然な熟成と安定化を促すという重要な役割を担っています。

良年にのみ造られる「ヴィッラ・ブッチ・リゼルヴァ」は、最も古い畑のブドウから造られ、最低18カ月以上熟成。

その味わいは、ヴェルディッキオの概念を覆すほど複雑で、アプリコット、スパイス、ミネラルを思わせる深い余韻を備えています。


イタリアワイン界へ遺した功績

アンペリオ・ブッチ氏は、自らのワイナリーだけでなく、イタリアワイン界全体の発展にも尽力しました。

2008年には、小規模生産者の価値を守る団体「FIVI(ヴィニャイオーリ・インディペンデンティ)」の創立メンバーとして参画し、生産者たちの未来のために尽力しています。

その情熱と哲学は、今もなお多くの造り手たちへ受け継がれています。

世界が認める、アイコニック・ワイナリー

ヴィッラ・ブッチは、2025年、世界的経済誌Forbesが選ぶ「100 Iconic Wineries of the World」にも選出されました。

これは、ヴィッラ・ブッチが単なる地方の名門ではなく、“イタリアを代表するアイコニック・ワイナリー”として、世界的評価を確立していることを示しています。

受け継がれるヴィッラ・ブッチの未来

2024年、ヴィッラ・ブッチは、イタリアを代表する実業家ファミリーであるヴェロネージ家へと引き継がれました。

現在は、若きワイン愛好家フェデリコ・ヴェロネージ氏のもと、長年ワイナリーを支えてきた職人たちと共に、新たな未来を歩み始めています。

そして2025年8月21日、であり、ヴィッラ・ブッチの魂そのものであったアンペリオ・ブッチ氏が89歳で逝去されました。

しかし、彼が生涯をかけて築き上げたワインは、これからも世界中で愛され続けることでしょう。


グラスの中には今もなお、彼が信じ続けた土地への敬意と、ヴェルディッキオへの情熱が静かに息づいているのです。

創業者アンペリオ・ブッチ氏の揺るぎない哲学

「ワインはセラーで生まれるものではない。ワインは畑から造られるもの」