世界に「食べる楽しさ」を教える街

世界に「食べる楽しさ」を教える街

火山灰の恵みで育つとびきり甘いトマトに、たった90秒でサクッと焼き上がるピザ。

そして夕方には人でいっぱいのテラス席。

夜中まで続く賑やかな雰囲気と、絶えず聞こえてくる笑い声。 

ナポリの夏は、静けさとは無縁です。

6月から9月にかけて、ナポリの町全体はまるで「オペラ舞台」のようになります。

ベランダの間にピンと干された洗濯物、ハンドル幅ギリギリの狭い路地をすり抜けていくスクーター。

そして、通りに面した家からは、あつあつのオイルにトマトが飛び込む香ばしい香りが漂ってきます。

美味しい食材と素晴らしい文化を持つ街は世界中にたくさんありますが、ナポリにとっての「食」は単なる文化ではありません。

ナポリにとっての食とは、いわば街の「アイデンティティ」。

サッカーのナポリ戦で着るあの鮮やかなスカイブルーのユニフォームと同じくらい誇らしいものなのです。

そして夏になると、その食文化はとびきりドラマチックに私たちのテーブルに現れます。

世界にピザを広め、私たちが知る「トマトソース」を生み出した街とも言われるナポリ。

実は、揚げ物への情熱も誰よりも強いのです。

つまり、「ナポリ=ピザ」で終わらせてしまうのは、あまりにももったいないということ!

ナポリの夏の食卓は、豊かな海の恵み、火山がもたらした実り豊かな土壌の野菜、修道院で誕生し、街で愛され進化していった極上の絶品スイーツまで、魅力ある美味しいものにあふれています。

カンパーニアにおいて、トマトとはもはや「信仰」

ナポリの食のすべては、トマトから始まります。

そして、カンパーニア州ほどトマトが美味しく育つ場所は世界中どこにもありません。

例えば、ヴェスヴィオ火山周辺の土壌には何千年もの噴火によってカリウムやミネラルがたっぷりと含まれており、他では決して味わえないほど味のギュッと詰まったトマトが収穫されます。

サールノ川の平野で育つ、細長い「サン・マルツァーノ」は、世界で最も有名なソース用トマトです。

EUの原産地名称保護(DOP)認定を受けており、ナポリっ子たちも並々ならぬ誇りと情熱で、その品質を守り続けています。

そしてもうひとつの名物が、「サン・マルツァーノ」のいとこにあたる「ポモドリーノ・デル・ピエンノロ・デル・ヴェズーヴィオ」。

小ぶりの少し尖ったトマトで、夏に収穫した後、輪っかにした細い縄に引っ掛けるように積み重ね、房にしてベランダに吊るします。

こうすることで旨みが凝縮し、冬まで長持ちするのです。

でも、おいしいトマトがとれるのに、冬まで食べるのを待つなんて誰もできません!

夏こそ、新鮮でおいしいトマトを生のままお腹いっぱい味わう季節なのですから。

そして、その楽しみ方は実に様々です。

「フリゼルラ」(軽く水にくぐらせた固焼きのリング状パンに、トマト、オリーブオイル、オレガノをたっぷり乗せたもの)で楽しんだり、「カプレーゼ」にしたり、あるいはニンニクをこすりつけたパンにそのまま潰してのせたり。

ナポリっ子たちは、トマトサラダのボウルの底に溜まったジューシーな果汁を「スカルペッタ(パンですくい取る)ゾーン」と呼びます。

お皿に残ったトマトの果汁もパンできれいにすくいとって、絶対に一口たりとも無駄にしません。

もちろんピザ、でも「夏のピザ」

ナポリピザの特徴といえば、柔らかく香ばしい焼き色と浮き輪のようにふっくらした耳(コルニチョーネ)と、とろけるようなジューシーさ。

今やユネスコの無形文化遺産にも登録されているナポリピザですが、その作り方にはルールがあります。

1つ目は、ゆっくりと時間をかけて生地を発酵させること。

そして、約450度の薪窯で、全体を一気に90秒ほどで焼き上げること。

そうして作られるナポリピザのなかでも、夏に多くの食通を虜にするのは「マリナーラ」。

トマト、ニンニク、オレガノ、オリーブオイルだけで作られ、チーズはひとかけらも乗っていません。

実はマルゲリータよりも100年以上歴史が古いピザです。

蒸し暑い夏の夜に食べると、洗練されたシンプルな美味しさをより感じられます。

一方、イタリア国旗の3色をまとって1889年に誕生した「マルゲリータ」は、今や世界中のあらゆるピッツェリアの定番です。

夏になると、ナポリっ子たちはピザを「折りたたんで」楽しみます。

その名も「ピッツァ・ア・ポルタフォリオ(お財布風ピザ)」。

小ぶりのピザを四つ折りにし、片手で持ちながら歩いて食べるこのピザは、イタリアの元祖ストリートフードです。

今でもエスプレッソ1杯分とほぼ同じ値段で、手軽に楽しめます。

揚げ物屋さんは、まるで「聖地」 

ナポリは世界で一番、揚げ物に真剣な街です。

そんなナポリの夏の揚げ物といえば、「クオッポ(cuoppo)」。

紙のコーン(円錐状の紙容器)に、その日一番の食材のフライをぎっしり詰めたもので、フリッジョトリア(フライ専門店)で買うことができます。

海の幸のクオッポには、小さなカタクチイワシやヤリイカ、丸ごと食べられるエビのフリッター。

山の幸のクオッポには、青のりが香る小さな揚げパン「ゼッポリーネ」やポテトコロッケの「クロッケ」、そしてズッキーニの花のフリットが入っています。

紙コーンに入っているので食べ歩きに向いているのも特徴です。

歩いたり、立ち止まったりすることが多いナポリの街巡りにはぴったり!

食べる前には、上からレモンをギュッと絞ることをお忘れなく!


そして忘れてはならないのが、「ピッツァ・フリッタ(揚げピザ)」。

リコッタチーズと豚のカリカリ揚げ(チコリ)を包んで揚げたカルツォーネ風のピザで、窯用の薪が乏しく、油が手に入りやすかった戦後の苦しい時代に生まれました。

旧市街(チェントロ・ストーリコ)の老舗フリッジョトリアが作るこのピザは今もなお、イタリア食文化の中でも最高の逸品です。

海までは、ほんの20分 

ナポリ湾の青い海は、単なる景色ではなく、街の壮大な「食材庫(パントリー)」としての役割も担っています。

 夏、この海岸線に咲き誇る美食のラインナップは、シンプルですが完璧な味わいをしています。 

小さくて甘みの強いあさりと、ニンニク、オイル、唐辛子、パセリで仕上げる「スパゲッティ・アッレ・ヴォンゴレ」は、ナポリっ子がその店の腕前を試すためにまず注文する、定番の一品です。

潰した黒胡椒とレモンだけでムール貝を蒸し上げる「インペパータ・ディ・コッツェ」は、夏海岸で楽しむファーストフード的存在。 

ほかにも、1950年代にソレント半島沿いの小さな入り江のレストランで誕生した「スパゲッティ・アッラ・ネラーノ」。

揚げたズッキーニとプロヴォローネ・デル・モナコ・チーズが絡み合うこのパスタは、今や世界中で愛されています。

その味を生み出した海を眺めながら食べるスパゲッティ・アッラ・ネラーノには、世界のどんなレストランもかないません。

そして、黄昏時にはナポリっ子にならって水辺へと向かいましょう。 

卵城(カステル・デッローヴォ)の足もとに広がるボルゴ・マリナーリ、ポジリポの風通しのよいテラス、あるいは湾を渡って、この沖合で最も小さく秘密めいた島・プロチダへ。

 グレープフルーツほどもある大きなレモンのサラダと香ばしい網焼き魚で楽しむランチは、まさに夏の特権です。

甘美な余韻と、終わらない夏の夜

ナポリ人がスイーツに向き合う時の本気度は、ほかの食べ物への情熱に引けをとりません。 

アマルフィ海岸の修道院で生まれた「スフォリアテッラ」には、2つの流派があります。

パリパリとしたパイ生地の葉を重ねた「リッチア」と、しっとり滑らかなクッキー生地の「フロッラ」です。

どちらにも、セモリナ粉、リコッタチーズ、そして柑橘のシロップ漬けがギュッと詰まっています。 

ほかにも、ラム酒のシロップをたっぷり吸い込んだ「ババ」は、街の愛情表現そのもの。

「ヌ・ババ(君はババのように最高だ)」という言葉は、ナポリにおける最大級の褒め言葉です。

 そして夏のショーケースを彩る主役は、冷たいジェラートたち。

ソレント産レモンの爽やかなソルベや、スポンジとレモンクリームのドーム型ケーキ「デリツィア・アル・リモーネ」は、まるでアマルフィ海岸全体の魅力をひとつのスイーツに凝縮したかのような味わいです。

夜の歴史的中心街(チェントロ・ストーリコ)を歩けば、そこにはいつもコーヒーの香りが漂っています。 

実は、ナポリはイタリアン・エスプレッソの「聖地」。

お店で注文すれば、素早く、濃く、砂糖がたっぷり入ったエスプレッソが運ばれてきます。 

でも、夏になればその後継は一変。

エスプレッソの代わりに、「カフェ・フレッド(冷たいエスプレッソ)」や、冷たいコーヒーに濃厚なヘーゼルナッツクリームを浮かべた「カフェ・アッラ・ノッチョーラ」がテーブルに置かれます。

 また、見知らぬ誰かのために自分でもう一杯分の代金を払っておく「カフェ・ソスペーゾ(保留コーヒー)」の文化もこの街で生まれました。

これだけで、この街の温かさがどんなものか伝わるはずです。

火山が見守る、宴のテーブル 

この完璧な夏の風景を締めくくるのは、カンパーニアのワインたち。

キリッと冷やせば柑橘の風味が際立つ「ファランギーナ」は、ナポリの夏にかかせない定番白ワイン。

山あいの丘陵地から届く「グレコ・ディ・トゥーフォ」や「フィアーノ・ディ・アヴェッリーノ」は、深みのある本格派です。 

そしてヴェスヴィオ火山の斜面で育つのは、あのトマトたちと同じく豊かな火山灰の恵みを受けたワイン、「ラクリマ・クリスティ」。

ナポリはおよそ3000年もの間、絶えることなく人が暮らし、そして絶えることなく「美味しいもの」が行きかう街です。

噴火、帝国の興亡、幾多の苦難を乗り越えてこられたのは、ただひとつ、「食卓」という聖域を護り続けてきたからに他なりません。

夏の夜、街のあちこちでテーブルが屋外へと押し出され、真夜中過ぎまで賑わいが続きます。 

さあ、椅子を引き寄せて腰を下ろしてください。

 ナポリの街で、「飛び入りのゲスト」を拒む人なんて一人もいないのですから。

ITALIAKARAの読者のみなさまへ

ナポリの夏から秋は、静けさとは無縁の「オペラ舞台」!
ヴェスヴィオ火山の恵みで育つ甘いトマトの香りと、夜中まで続く人々の笑い声。ナポリっ子にとって食とは、単なる文化を超えた街の誇りであり「アイデンティティ」です。
今月は、そんな世界に「食べる楽しさ」を教える街・ナポリの情熱をそのまま味わう食卓へ。太陽の恵みがギュッと詰まったワインとともに、賑やかなナポリ気分を楽しんでみてくださいね!

食の街、ナポリな気分が味わえるワイン♪

● ラクリマ・クリスティ・ビアンコ(フェウディ・ディ・サン・グレゴリオ) 火山灰の恵みがもたらす「キリストの涙」という名のワイン。旬のサン・マルツァーノで作るパスタと。

 \ワイン博士MIHOのおすすめ/ あつあつのトマトソースに飛び込むオイルの香り!力強いミネラル感が完熟トマトの旨みを引き立て、一口でナポリの賑やかな路地にタイムスリップできます♪

● ピアーノ・ディ・モンテヴェルジネ・タウラージ(フェウディ・ディ・サン・グレゴリオ) カンパーニャの偉大な熟成赤ワイン。熟した肉料理や贅沢な夜の主役に。

\ワイン歴30年CHIIのおすすめ/ ナポリの重厚な歴史を感じさせる至高の1本。深いコクと溢れるアロマは、特別な日に友人とじっくりグラスを傾けたくなる味わいです!

● ドゥブル・エディション(フェウディ・ディ・サン・グレゴリオ) カンパーニャの固有品種で造る洗練された泡。フレッシュなカプレーゼやフリットと。

\若手エースHIKAのおすすめ/ シュワっと弾ける上質な泡は、ナポリの陽気な太陽そのもの!トマトのボウルの底に残った果汁をパンですくう「スカルペッタ」のお供にも最高です。

 

TEXT/ITALIAKARA

※この記事は、イタリア文化のスペシャリストの監修がされています。