Sicily in Summer: An Island That Devours the Sun

太陽を喰らう島・シチリアの夏

夜明けのグラニータ(シチリア島発祥の氷菓)、真昼のカジキマグロ、夕暮れ時の火山ワイン——3000年の食欲が最も熱く燃え上がる季節

シチリアの夏の午前11時頃、島全体がピタリと時を止めるような瞬間があります。

ピアッツァ(広場)はシルクのシーツを被せたように熱気が立ち込め、シャッターも閉まる時間に、唯一残された選択肢は食べることだけ。

ランチを始めるにはまだ早い時間。でも、冷たくて甘いグラニータ(氷菓)や、レモンの木の木陰に座り、温かいブリオッシュとともに味わうグラニータ(氷菓)なら、その時間帯でも気軽に楽しめます。

シチリア人はずいぶん前に、夏の暑さと戦うことをやめました。その代わりに、夏を味わい尽くす術を学んだのです。

地中海で最も大きな島であるシチリアは、その食文化もはとてもおおらかです。

厨房には、これまでの歴史の中で、シチリアを訪れた人々が残していったものが並びます。

ギリシャ人はオリーブとワインを。

アラブ人は柑橘類、アーモンド、サトウキビ、そして氷をデザートに変える魔法を。

スペイン人は新大陸から持ち帰ったトマトとチョコレートを。

3000年にわたる異文化の到来が、イタリアで最も独特な郷土料理を生み出しました。

そしてその魅力は、市場が食材で溢れ返り、海が最も豊かな恵みをもたらす夏の盛りにピークを迎えます。

【朝】デザートを食べる朝。まるでアートのようなひと品

では、夏のシチリア人の一日は、どのように始まるのでしょうか。

実は、シチリアの朝食は、イタリアで定番のカプチーノとコルネット(クロワッサン)ではありません。

夏の朝に欠かせないのは、「グラニータ・コン・ブリオッシュ」。冷たいグラニータと、甘いブリオッシュを一緒に味わうのが、シチリアならではの朝食です。

グラニータは、かき氷やソルベとは少し違います。アラブの冷たい飲み物「シャルバット(Sharbat)」をルーツに持ち、かつてはエトナ山から切り出した雪を石造りの氷室で保存し、それを使って作られていました。口に入れると繊細な氷の粒がほどける、シチリアが誇る伝統の味です。

この朝食の面白いところは、地域によってグラニータの味が変わることです。

カターニアをはじめとするシチリア東部では、アヴォラ産アーモンドを使った、香り豊かでミルキーなアーモンドグラニータが人気です。

一方、メッシーナでは、コーヒーグラニータに無糖のホイップクリームをのせるのが定番。この組み合わせこそが本場の味とされ、それ以外のアレンジは好まれません。

真夏になると、街中でよく見かけるのが、濃い紫色をした黒クワの実(ジェルシ・ネーリ)のグラニータです。ひと口食べると口いっぱいに夏の香りが広がり、指先まで紫色に染まるほど。その鮮やかな色も、シチリアの夏の風物詩です。

そして、グラニータと一緒に添えられるブリオッシュにも意味があります。頭に小さな丸い突起(トゥッポ)が付いた、やわらかな卵風味のブリオッシュは、パンとして食べるだけではありません。

少しずつちぎってグラニータに浸し、スプーン代わりにして味わうのがシチリア流。ゆっくりと時間をかけて朝食を楽しむ、その食べ方までが、この島の夏の文化なのです。

【正午】アラブ情緒が残るスーク(市場)

シチリアの夏の食文化を知るなら、午前10時頃の市場を歩くのがおすすめです。

パレルモの「バッラロ」やカターニアの「ラ・ペスケリア」は、ただ食材を売る市場ではありません。新鮮な食材が並び、威勢のいい商人たちの掛け声が響く、まるで街全体が舞台になったような活気に包まれています。

商人たちが歌うような節回しで値段を呼び込む「アッバンニアータ」という掛け声は、アラブ文化の影響を受けたシチリアらしい風景のひとつです。

7月の市場では、色鮮やかな野菜や果物が芸術作品のように並びます。10種類以上のトマトがピラミッドのように積み上げられ、ズッキーニの花が山のように並び、平たい桃「バントウ(蟠桃)」が箱いっぱいに詰められています。

中でもひときわ目を引くのが、たくさんのカジキマグロ(ペッシェ・スパーダ)です。鮮度が一目で分かるよう、輝く目を見せるように頭を並べて展示され、その姿はまるでトロフィーのような迫力があります。

加えて、シチリアを代表する夏の味覚が「ガンベロ・ロッソ・ディ・マザーラ」です。島の西端・マザーラ沖の深海で獲れる美しい赤エビは、シチリアでは新鮮なうちに生で食べるのが定番。上質なオリーブオイルをかけ、レモンをほんの少し搾るだけで、その甘みと旨みを存分に味わいます。

今では東京やパリの高級レストランでも提供される特別な食材ですが、その魅力はもともと、トラパニの海辺に置かれた素朴なプラスチックのテーブルで、地元の人々が気軽に楽しんできた一皿から始まりました。

まずは路上で味わう

世界で最も古いストリートフードの伝統を持つパレルモは、夏になるとそれが石畳の上にあふれ出します。

そこには、質素でありながらも古代から続く味があります。

ひよこ豆の粉を揚げた黄金色のフリッターを柔らかいパンに挟み、レモンを絞って食べるパネッレ(Panelle)

ミントの香りを纏わせたジャガイモのコロッケ、クロッケ(Crocchè)

トマト、タマネギ、アンチョビ、カチョカヴァッロ・チーズを乗せた、ふんわりと厚みのあるパレルモ風ピザのスフィンチョーネ(Sfincione)

どれも商人がスピーカーで掛け声を響かせながら、3輪車トラックで販売しています。

そして、シチリアのストリートフードの頂点に君臨するのがアランシーネ(arancineです(パレルモでは女性名詞の「アランシーネ」、カターニアでは男性名詞かつエトナ山のように尖った形の「アランシーニ」と呼ばれることも)。

サフランライスの中にラグー(肉軟煮)やバター、ハムを詰め、衣をつけてしっかりと揚げたアランシーネは、1つでもランチに十分なほどの満足感。

2つ食べきるには覚悟が必要です!

【午後】皿の上に広がる地中海

シチリアの夏の料理は、菜園と海の間で常に絶妙な駆け引きを行っており、その真骨頂はパスタ料理に現れています。

パスタ・コン・レ・サルデ(Pasta con le sarde)は 新鮮なイワシ、フェンネル、サフラン、レーズン、松の実をブカティーニに合わせた、900年の歴史を持つパスタ。

アラブの甘み、漁師の節約術、丘の香りが一体となった、一皿で島の歴史すべてを味わえる料理です。

島の西に位置するトラパニのペースト・アッラ・トラパネーゼ(Pesto alla trapanese)は、リグーリア州のバジルペーストに対するシチリアからの答え。

生トマト、アーモンド、ニンニク、バジルを潰し、螺旋状のパスタ「ブシアテ」と和えるこの料理は、パスタを茹でる以外に火を使わないのが特徴で、まさにトラパニの8月にぴったりの料理です。

他にも、シチリアの夏の食卓に欠かせないのがカポナータ(Caponata)です。

ナス、セロリ、ケイパー、オリーブを甘酸っぱく(アグリドルチェ)煮込んだもので、シチリア人はこの味が大好き。

ほぼすべての料理にこのアグリドルチェの味付けを施します。

そしてどの家庭も「我が家のレシピが絶対」。他人のレシピは認めない、なんてことも。

また、常温で味わうカポナータは温暖な気候のシチリアにぴったり。

翌日に冷蔵庫から出して立ち食いするとさらに美味しくなります。

実際、多くのシチリア人がそうやって食べているとか。

【夕暮れ】火山が育むワイン

陽の光が柔らかくなる頃、視線はエトナ山の斜面へと向けられます。

ここでは漆黒の火山性土壌と高標高のおかげで猛暑の夏でも涼しく、葡萄に適した環境が整っています。

地理的品種であるネレッロ・マスカレーゼ(Nerello Mascalese)はブルゴーニュの生産者が嫌がるほど頻繁に「ブルゴーニュに匹敵する」と評される、淡い色合いと華やかな香りを持つ赤ワインを生み出します。

カリカンテ(Carricante)は地元の人々が「火山の恵み」と胸を張る、心地よい塩気とミネラル感を持った白ワインを生み出します。

葡萄畑は「コントラーダ」と呼ばれる古い溶岩流の区画に分かれています。面白いのは、それぞれの区画が独自の個性を備えていること。これらの区画を味わい、巡ることは、ワイン愛好家にとって真の「聖地巡礼」となっています。

海沿いに降りると、夏のワインは表情を変えます。島唯一のDOCGであり、チェリーのような華やかさでキリッと冷やして楽しめるチェラズオーロ・ディ・ヴィットーリア(Cerasuolo di Vittoria)や、揚げたての海鮮と合わせる冷えたグリッロ(Grillo)が楽しめます。

【夜】砂糖とリコッタ、そして名残惜しい夜の終わり

シチリア人いわく、彼らのペストリー(菓子)の伝統は修道院の壁の向こうで完成されたそう。修道女たちがアーモンド、リコッタ、ドライフルーツを「食べられるバロック建築」へと昇華させました。

カッサータ(Cassata)はスポンジケーキ、甘くした羊乳のリコッタ、ピスタチオグリーンのマジパン、そして柑橘の砂糖漬けを飾った至高の逸品。

生地はパリッと心地よい音を立てるカンノーロ(Cannolo)中に詰めるリコッタクリームは決して作り置きせず、提供するその瞬間に詰められなければなりません。

その他にも、まるで本物の果物と見紛うほどリアルなマジパン菓子のフルッタ・マルトラーナ(Frutta martorana)や、ブリオッシュにジェラートを挟んだシチリア風アイスクリームサンドイッチのジェラート・コン・ブリオッシュはシチリア人にとって至高の傑作と呼ばれることも。

シチリアの夏の夕食は遅く始まり、さらに遅く終わります。

葡萄の木陰や電飾の下、屋外で催される宴は、満ち足りた幸福感そのもののように賑やかです。

征服者、旅人、そして美食に厳しい自国の人々を養ってきた3000年の歴史を経て、この島は夏について一つの結論にたどり着きました。

—— 料理の大部分は、太陽がやってくれる。私たちに求められているのは、ただ腰を下ろし、その奇跡に心を傾けることだけなのだ—— と。

Text/ITALIAKARA

※この記事は、イタリア文化のスペシャリストの監修がされています。